弁護士のAI活用とシャドーAI|海外事例と日本の法務リスクを解説

海外の法律実務コミュニティで交わされた内製 AI の議論を手がかりに、法律事務所に特有のシャドー AI のリスクを解説します。守秘義務、個人情報保護、情報セキュリティの論点と、実務で取り組むべき対策を整理します。

目次

はじめに

弁護士による AI 活用が進むなか、海外の法律実務コミュニティでは、法律事務所による内製 AI をめぐる議論も見られるようになりました。

きっかけは、Reddit に投稿された、Harvey(ハーベイ) の代わりに、オープンソースの AI を自前のハードウェアで動かしている事務所はあるかという問いでした

このスレッドでは、海外の法律実務家が AI ツールを内製した経験が紹介されています。もっとも、これらは投稿者個人の経験談であり、法律業界全体の状況を示すものではありません。それでも、法律実務における AI 活用の今後を考えるうえで、参考になる動きと考えています。

本記事では、こうした海外事例を紹介するうえに、内製 AI をどのように管理すべきか、どのような場合に「シャドーAI」となり得るのかを整理します。さらに、事務所の承認を得ない AI 利用がもたらすリスクと、安全に活用するための対策についても解説します。

一、海外の法律実務コミュニティで議論される「内製 AI」

内製AIとSaaS型AIの比較

本章では、Reddit の「r/legaltech」の議論を取り上げます。以下で紹介する内容は投稿者個人の経験談であり、法律業界全体の普及状況を示す統計ではありません。この点を踏まえて、海外で語られている法律事務所の AI 内製事例を見ていきましょう。

(一)法律事務所における AI 内製化の動向

法律事務所が、自らの業務に合わせて AI を構築する。こうした選択肢は、弁護士 AI 活用の一形態として議論され始めています

発端となったのは、前述したスレッドです。この問いに対しては 80 件を超えるコメントが寄せられ、実務への導入可能性やコストをめぐる具体的な議論が交わされました。

ある大手法律事務所に所属する投稿者は、実務への適用について慎重な見方を示しています。現時点では、内製 AI を Harvey の代替として使う予定はなく、限定的な実験にとどまるという立場です。また、高度なセキュリティが求められる本番環境で使えるアプリケーションの構築にも否定的な見解が目立ちました

その一方で、別の見方もあります。Am Law 200(米国の法律事務所を収益規模で順位付けするランキング)に入る事務所が、所内向けのツールを内製しているという事例も紹介されています。

このように、海外のリーガルテック市場においては限定的な実証実験から組織的な導入まで、異なる段階の取り組みが混在しています。

(二)海外における AI 内製化の具体例

スレッドには、自ら AI システムを構築した経験を語る投稿者も登場します。ここでは、代表的な二つの事例を紹介します。

1. 米国南部の弁護士:一人で RAG システムを構築

一つ目は、米国南部の小規模事務所で働く弁護士の事例です。弁護士としての実務経験は20年、Linuxの使用経験は30年に及びます。

彼は専業のエンジニアではないものの、複数のオープンソースモデルと判例データ、各州の法令を組み合わせ、RAG(検索拡張生成。外部データを参照しながら回答を生成する AI 技術)システムを構築しました。

開発期間は約 120 日で、作業時間は 350〜500 時間と推定されています。投稿者によると、現在は 50 州のうち 47 州について、法令データの変更を検出し、自動更新する仕組みが機能しています。

また、投稿者は、事務所のオーナーから信頼を得て開発を進めているとも述べています。ただし、組織として正式な承認手続きやガバナンス上の確認の有無までは、投稿から確認できません。

2. 地方検事局:組織全体の AI 基盤を内製

二つ目は、弁護士約 350 人、職員全体では約 1,000 人が勤務する地方検事局の事例です。

投稿者は、オープンソースモデルと独自のバックエンドを組み合わせ、組織内の AI 基盤を構築したと説明しています。

実際、本人の評価では、外部ベンダーの製品よりも良い結果が得られ、長期的なコストも抑えられているとのことです。ただ、具体的な評価指標は示されていません。

(三)内製に伴う技術的な負担

スレッドには、ローカル環境で AI を構築する際の技術的な難しさを指摘する投稿もありました。

特に、案件資料を検索しやすい形に整理する方法には、専門的な調整が必要です。また、必要な情報を AI へ適切に渡す仕組みの設計も同様です。さらに、扱う資料が増えるほど、高性能な機器や継続的な保守も求められます。

そのため、内製 AI を検討する際は、導入時の費用だけで判断すべきではありません。そのうえで、開発や保守に必要な人員と時間も含めて評価する必要があります。

(四)スレッドから読み取れる傾向:限定業務から進む内製化

海外の議論においては、「既存のリーガルテック製品を全面的に代替するわけではないが、自所の特定業務に特化したツールを内製化している」という主旨の声が象徴的に語られています。

これは一部の投稿者の見方にすぎないが、同様の方向性は、スレッド内の複数の投稿にも見られます。すなわち、既製の統合プラットフォームを全面的に置き換えるのではなく、特定の業務に用途を絞って、小規模なツールを構築するアプローチが現実的な選択肢として浮上しています。

もっとも、実務における本番運用に対しては依然として慎重な声も少なくありません。ローカル LLM(大規模言語モデル)を実際に安定運用する事務所は、まだごく少数だという指摘もありました。現時点では、「限定的な実験」、「独自の内製化」、「コンプライアンスを重視した慎重な立場」という、三つの観点が併存していると捉えるのが適切でしょう。

(五)実運用におけるセキュリティ管理の課題

海外の個別事例を離れ実務に目を向けると、AIを独自構築・運用する場合、法律事務所は情報セキュリティや管理体制についても検討する必要があります。

米国 NIST(National Institute of Standards and Technology、国立標準技術研究所)は、「AI リスク管理フレームワーク」を策定しています。そこでは、導入前のテストや運用後の継続的なモニタリングの重要性が強く指摘されています。

また、企業クライアントから監査対応を求められた場合にも説明できるようにしておく必要があります。

さらに、所内の正式な承認手続きを経ず、管理の対象にもなっていない内製システム、組織が把握できない「シャドーAI」につながる可能性があります。こうした状態は、情報漏えいや契約上の問題など、さまざまなコンプライアンスリスクを生じさせかねません。

具体的な管理体制の構築方法については、第四章にて解説します。次章では、この状態が「シャドー AI」とどう関係するのかを整理します。

二、内製 AI が「シャドー AI 化」する境界線

承認済みの内製 AI/未承認の外部 AI 利用/シャドー AI 化した内製 AI の対比図

前章で見たように、海外では法律事務所や公的機関が AI を内製する事例が語られています。

もっとも、内製 AI が直ちに「シャドー AI」に該当するわけではありません。内製 AI も、所内の環境で動いているという理由だけでは、安全とも危険とも判断できないのです。判断の分かれ目は、AI を誰が作ったかではありません。その存在や用途が「組織の正式な内部統制プロセスの下で適切に管理・監督されているか」が分かれ目です。

本章では、AI 利用を三つの状態に分け、内製 AI がシャドー AI 化する境界線を整理します。

(一)一般的なシャドー AI の定義:未承認の AI 利用

シャドー AI とは一般に、組織の承認や監督を受けず従業員や各部門が独自に AI ツールを業務に利用することを指します。

代表的な事例としては、個人アカウントの生成 AI(ChatGPT、Geminiなど)に業務上の機密情報を入力する行為が挙げられます。また、未承認の AI 搭載ブラウザ拡張機能や、各部門独自に契約した AI SaaS の利用も含まれます。

こうした利用では、組織の内部統制プロセスの外側で行われるため、どのような情報が外部に送信されているかを把握できません。その結果、情報漏えいやアクセス管理の不備など、さまざまなセキュリティリスクが生じるおそれがあります。

(二)内部統制の観点からみる AI 運用の3つのフェーズ

独自に構築された AIシステムは、自所(自社)のローカル環境で動いているという理由だけで、安全とも危険とも一概に判断できません。そこで、組織内の承認・管理の状況によって、次の三つのフェーズに分けます。

AI の運用フェーズ
シャドー AI との関係
状態 1
承認・管理された AI
(外部、内製 AI 不問)
運用責任者、利用目的、取扱データ、管理体制が明確な内部統制プロセス下のツール
原則として該当しない
状態 2
未承認の外部 AI 利用
個人の判断で、外部の生成 AI サービス等を業務に利用している状態
一般的なシャドー AI に該当する
状態 3
未承認・未管理の内製 AI
セキュリティ基準や責任者が不明確なまま、独自に構築・運用されている内製 AI
シャドー AI に該当し得る


本記事では、三つ目の状態を「シャドー AI 化した内製 AI」と表現します。これは、法令や情報セキュリティ分野で確立された正式な分類ではありません。内製 AI に生じ得るガバナンス上の問題を説明するための整理です。

1. 承認・管理された内製 AI

責任者が導入前の審査を行い、利用目的入力できるデータ文書化されています。組織が利用状況を継続的に把握しているため、原則としてシャドー AI には該当しません。

2. 未承認の外部 AI 利用

典型例は、所内の承認を得ず、個人用の AI アカウントに依頼者資料を入力するケースです。この場合、事務所側は誰がどのサービスを利用し、またはその送信先を把握していません。一般に、このような利用がシャドー AI として問題になります。

3. 未承認・未管理の内製 AI

担当者が業務効率化のために AI ツールを構築したものの、正式な審査を経ていない状態です。保存データや外部接続、障害対応の方法を、担当者以外は把握していない可能性があります。
このような内製 AI は、シャドー AI に該当し得ます。

(三)内製 AI の管理状況はなぜ漏れやすいのか

未承認の外部 AI サービスの利用状況は、契約情報や通信記録から発見できます。これに対して、所内で自作システムは「便利な内部ツール」として業務に組み込まれるので、審査の対象から漏れやすいのです。

特に、組織におけるシャドー AI 対策が外部サービスの制限に偏っている、所内サーバーで動くシステムに対しては、ガバナンスの目が届きにくくなります。

また、経営陣や管理者がシステムの存在自体を認知していても、採用しているLLM(大規模言語モデル)の種類外部 API との接続状況まで把握しているとは限りません。ツールの存在が知られていることと、リスクを含めて管理されていることは、決して同じことではないのです。

つまり、内製 AI がシャドー AI 化するかどうかは、機能や保存場所だけで決まりません。承認手続き責任者、データ管理といった管理体制を含めて判断する必要があります。

では、管理が不十分な場合、法律事務所にはどのようなリスクが生じるのでしょうか。次章では、弁護士の守秘義務や個人情報保護、出力の正確性という観点から整理します。

三、未承認の内製 AI が法律事務所にもたらすリスク

十分な承認・管理のない内製 AI には、一般企業と同様の情報漏洩リスクが常につきまといます。さらに法律事務所では、弁護士による AI 活用に特有の論点として、守秘義務出力情報の正確性をいかに担保するかという問題も生じます。

本章では、四つのリスクを整理します。

(一)守秘義務を支える情報セキュリティ管理

弁護士は、正当な理由なく、依頼者について職務上知り得た秘密を第三者に漏らしたり、利用したりしてはなりません。この守秘義務を果たすには、依頼者情報を適切に保存・管理する必要があります。內製AI、SaaS型 AI などに情報を入力する場合も同様です。

日本弁護士連合会の「弁護士情報セキュリティ規程」は、こうした情報管理について、法律事務所が講じるべき基本的な考え方を定めています。

規程が扱う主な事項は、次のとおりです。

  • 情報の機密性・完全性・可用性の確保
  • 情報を安全に取り扱うための措置
  • 情報の保存・廃棄を含む管理方法
  • 情報漏えいなどの事故が発生した場合の対応

この義務は一人事務所であっても例外なく対象となります。ただし、すべての事務所に一律の対策が求められるわけではありません。事務所の規模や業務内容、取り扱う情報に応じた対応が必要です。

こうした情報管理上のルールは、外部の AI サービスだけでなく、内製 AI にも適用されます。前述のとおり、所内で作ったシステムだからといって、安全だとは限りません。そのため、内製であることのみを理由に安全だと判断する認識は、見直す必要があります。

(二)個人情報保護法上の論点

個人情報保護委員会は 2023 年 6 月、生成 AI への個人情報入力について注意喚起を公表しました。具体的には、利用目的の範囲内かどうかや、提供事業者が入力内容を学習に利用しないかを確認するよう求めています。

もっとも、内製 AI が完全なローカル環境(事務所内)で完結していれば、個人情報の第三者提供が直ちに問題となるわけではありません。ただし、外部の AI サービスクラウド環境を利用している場合は注意が必要です。そのため、データがどこへ送られ、どう保存されるのかを把握しなければなりません。

特に法律事務所が扱う情報には、機微性の高いデータが多く含まれます。そのため、入力可能な範囲をあらかじめ明確に規程化しておくことが重要です。

(三)出力内容の正確性と弁護士による検証

生成 AI は、実在しない判例を示したり、判例名や引用箇所を誤ったりすることがあります。これは、独自構築されたシステムと既存の外部ベンダー製品のどちらを運用する場合にも等しく生じ得る問題です。

実際、2026 年 6 月には、米国連邦地裁である事件が起きました。双方の代理人が、架空の判例を確認せずに書面へ引用した事案が発生しています。この事件は最終的な法的判断をテクノロジーに委ねることの危険性を示す実務的な教訓とも言えます。

そのため、AI の出力を書面に使う場合は、弁護士自身が条文や判例を検証する義務があります。また、内製 AI では、参照する法律情報の更新まで事務所側で管理しなければなりません。

*生成 AI が提示した判例や法学データの具体的な検証フローについては、別記事「AIハルシネーション時代の判例検索|弁護士が知るべき検証フロー」にて詳細を解説しています。

また、判例検索の基本的な仕組みについては、「弁護士が知っておきたい:判例検索エンジンの仕組み」もぜひあわせてご覧ください。

(四)クライアント契約とセキュリティ上の要求

法律事務所が扱う情報には、依頼者や顧問先企業の機密情報(営業秘密等)も含まれます。内製 AI の管理に不備があれば、秘密保持契約(NDA)への違反が問題となる可能性があります。

近年、サプライチェーン・リスクマネジメントの観点から、企業クライアントが事務所に対して情報セキュリティ体制の開示や監査を求める事例が増加していますこのような場面において、自所で運用する内製 AI のリスク管理状況を明確に説明できなければ、クライアント側の調達・コンプライアンス基準を満たせない可能性もあります。

したがって、AI 運用の内部統制プロセスが確立されているか否かは、既存の顧問契約の継続や、大企業からの新規案件受任の成否を左右する重要な経営課題とも言えるでしょう。

(五)依頼者への説明責任(アカウントビリティ)

最後に、実務的な問いを紹介します。「この AI で依頼者情報をどう取り扱っているか、平易な言葉で説明できるか」という問いです。具体的には、次の点を確認してみましょう。

  • 該当システムをどのような業務(利用目的)のために運用しているか
  • 取得したデータはどこに保管され、誰にアクセス権限が与えられているか
  • 外部の API 等を経由し、事務所外(社外)へデータが送信される経路はあるか
  • システム障害や情報漏洩などのインシデントが発生した場合、誰が対応責任を負うのか

もし明確に説明できない項目がある場合は、組織における AI の内部統制プロセスに空白が生じている懸念があります。

次章では、法律事務所が直面するシャドー AI リスクを適切に低減し、安全なリーガルテック運用を実現するための基本的なガバナンス体制の構築方法について解説します。

四、AI を安全に活用するガバナンス体制

申請→確認→承認→利用→見直しのフロー図

ここまでに指摘した各種のリスクは、AI の利用を一律に避けるべきだという意味ではありません。利用状況を把握し、ルールを設けることで、リスクを抑えながら弁護士 AI 活用を進められます。

そこで本章では、AI の導入前に確認すべき事項や、ツールの選定基準、事務所内で整えるべき利用ルールを整理します。

(一)AI 導入前に整備すべき内部統制プロセス

新しい AI ツールを導入するときは、事前に確認する手続きを設けます。ただし、大規模な委員会などを立ち上げる必要はありません。最終的に利用の可否を判断する人を、事務所の規模に応じて決めておきましょう。基本的な流れは、次のとおりです。

  • 利用目的および利用対象者の範囲を確定する
  • 取扱データの種類を特定し、潜在的なリスクアセスメントを行う
  • 審査に基づき、承認・条件付き承認・不承認の判定を下す
  • 承認された利用条件やアクセス権限の割り当てを記録・管理する
  • 法令改正及び規制動向、または業務環境の変化に応じて定期的に見直す

また、実務におけるリスクマネジメントを徹底するため、システムへ入力可能な情報の範囲を以下の3つのフェーズ(類型)に分類し、取扱規程として策定することを推奨します。

入力可能な法的情報・データ:既に一般公開されている判例、法令、公知の各種ドキュメント

条件付きで入力可能なデータ:個人の識別性や機密性を排除し、適切に匿名化措置を講じた資料

入力禁止とするデータ:依頼者や顧問先企業の機密情報(営業秘密等)、個人情報、各種アカウントの認証情報

あわせて、万が一の情報漏洩やシステム障害といったインシデントが発生した場合に備え、緊急連絡先や対応責任者を含む「インシデント対応体制」を事前に構築しておくことが重要です。

(二)AI ツール選定におけるチェックポイント

まず、外部の AI サービスを選定・導入する際は、機能や料金プランの比較にとどまらず、入力情報の扱われ方を確認する必要があります。

具体的には、次の点を確認しましょう。

  • 入力した情報はどこに保管されるか
  • 入力内容が AI 提供事業者によってモデルの学習等に二次利用されないか
  • 保管されたデータを必要に応じて任意に廃棄・削除する手順があるか
  • アカウントやアクセス権限の割り当てを自社側で統合管理できるか
  • 情報漏えい時に、迅速な通知や支援を受けられる体制があるか

特に、要配慮個人情報などの個人データを本人の同意なく入力する場合は、学習に利用しないかを確認する必要があります。

また、システムの内製化と外部ツールの費用を比較する際は、初期の利用料金だけでなく、独自開発に要する時間運用の保守負担を含めた総所有コスト(TCO)の観点から多角的に検討することが重要です。

(三)用途に応じた AI ツールの使い分け

すべての業務で同じ AI ツールを運用する必要はありません。実務においては、業務の内容や取り扱う情報の機密性に応じて、次のように使い分けることが考えられます。

  • 公開情報の要約や一般的な文案作成には、組織が承認した外部の生成 AI サービスを利用する
  • 秘匿性のある案件情報は、内部統制プロセスで入力が認められた環境のみで取り扱う
  • 極めて機密性の高い情報(営業秘密や個人情報等)は、原則として AI への入力を禁止する
  • 裁判書面等に反映する出力結果は、必ず弁護士自身が一次情報(原典)を確認して法的判断を下す

内製 AI であっても、前述したようにローカル環境(所内)で動作しているという理由だけで安全性が確保されるわけではありません。

そのため、実務上のガイドラインとして「どの業務に、どのツールを、どの条件で使えるか」を一覧にしておくと、所員が判断に迷いにくくなります。

(四)専任の IT 部門がいない事務所でもできる最初の一歩

専任の IT 担当者が不在の組織であっても、最初から複雑で厳格な制度を設計する必要はありません。まずは、次の三つの具体的なアクションから始められます。

1. 現在業務で利用されている AI を把握する

現在業務に利用されているすべての AI ツールを洗い出します。これには個人アカウントでの利用や、試験的に構築された内部ツールも対象に含めねばなりません。ツール名や具体的な利用目的を一覧にまとめるだけでも、組織内の利用実態を簡単に可視化できます。

2. 簡易的な取扱規程の作成

最初から詳細な社内規程を策定する必要はありません。次の五点を一枚にまとめ、全所員に共有します。

  • 組織が利用を承認した AI ツール
  • 入力可能な情報・データ
  • 入力禁止とする機密データ(営業秘密等)
  • 出力結果を実務に反映する前の検証フロー
  • インシデント発生時の報告先

3. 内部・外部の相談窓口の明確化

AI の利用可否や情報管理について迷った場合の相談先を決めておきます。小規模事務所や一人事務所の場合は、IT 事業者や情報セキュリティのの専門家への相談方法を確保しておくことも考えられます。

シャドー AI 対策の出発点は、禁止事項を増やすことではありません。組織内でどの AI がどう使われているかを把握することです。まずは利用実態を可視化し、そのうえで内部統制プロセスを少しずつ整えていきましょう。

Before/After 対比図。導入前(未承認・未管理の内製 AI)と導入後(承認・管理された内製 AI)の状態を比較

まとめ

海外の法律実務コミュニティでは、既製の AI サービスを全面的に置き換えるのではなく、特定の業務に合わせてシステムを独自構築する事例が紹介されています。ただし、これらは個別の投稿者による経験談です。AI の内製化が法律業界全体に広く普及していることを示すものではありません。

本記事では、組織内における AI の利用実態を三つの状態に分けて整理しました。

  • 承認・管理された AI
  • 未承認の外部 AI 利用
  • 未承認・未管理の内製 AI

内製 AI であっても、組織の正式な承認・監督下から外れていれば、それはシャドー AI に該当し得ます。一方、運用責任者や利用目的が明確に規程化されていれば、安全な管理下で最大限にそのパフォーマンスを活用できます。

法律事務所や専門サービス機関での運用においては、一般的な情報漏洩リスクに加え、弁護士業務に特有の問題にも注意が必要です。具体的には、守秘義務の順守や、個人情報の適切な取扱い、ハルシネーションを想定した出力情報の検証などです。そのうえで、利用対象者の範囲や取扱規程を定め、インシデント発生時の連絡・対応体制までも、あらかじめ定めておくことが重要です。

結論として、「どの AI が使いやすいか」を議論する前に、まず「自分たちの使い方は適切に管理されているか」を確認すること。これが、安全な弁護士による AI 活用を実現するための、最初の一歩となります。

【監修・執筆者紹介】
郭栄彦 Barry Kuo

郭 栄彦 Barry Kuo

Lawsnote 創業者・CEO

台湾を代表するリーガルテック企業「Lawsnote」の創業者。台湾弁護士・弁理士としての実務経験を経て2016年に同社を設立し、AIを活用したリーガルテック製品の開発・普及を主導。現在はLawsnote Japanの代表として、日本の法律実務の効率化と高度化を支援しています。

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