弁護士が求めるAIとは?最新調査から見るリーガルAIの現在地

弁護士AIの活用が進むほど、次に問われるのは信頼性です。Law Insiderの国際調査と日本の弁護士会・法務プラットフォーム調査から、弁護士がリーガルAIに何を求めているのかを解説します。

弁護士 AI の活用は、新しい段階に入っています。「使うかどうか」を議論する時期は、もはや過ぎたと言えるでしょう。今、問われているのは「どう使うか」です。生成 AI は、すでに弁護士の業務でも日常的に使われるようになりました。関心の中心も、どの業務で、どのように AI を活用するのかへと移りつつあります。

2026年、契約書データベースを提供する Law Insider が調査を実施しました。対象は 75 か国の法律実務家 534 名です。契約業務における AI 活用について尋ねています。回答者はいずれも AI を利用している層です。そのため、この結果を弁護士全体の AI 導入率として捉えることはできません。一方で、手がかりにはなります。すでに AI を使っている法律実務家が「何に使っているのか」、そして「AI に何を求めているのか」です。調査レポートは、Law Insider の公式ページから無料でダウンロードできます。なお、Law Insider は SimpleDocs 社が運営しており、同社は法律専門 AI サービス「SimpleAI」も提供しています。この点は、調査結果を読む際の前提として、頭の片隅に置いておくとよいでしょう。

本記事では、この調査を一つの起点とします。そのうえで、日本の弁護士会や法務プラットフォームの調査データ、そして当社、Lawsnote が弁護士に行ったヒアリングも踏まえます。リーガル AI が今後どのように実務へ組み込まれていくのかを考えていきます。

一、AI は弁護士の日常業務の一部へ

(一)AI を継続的に利用する法律実務家

この調査では、回答者の 86% が契約業務で週1回以上 AI を利用していました。約 49% は毎日利用し、41% は1日に複数回使っています。

もちろん、これは AI を利用している人を対象とした調査です。そのため、「弁護士の86%が AI を使っている」と一般化することはできません。

それでも、AI を導入した層を見ると、見えてくることがあります。日々の業務の中で AI を繰り返し使うことが当たり前になり、実務の一部として定着しつつある、という実態です。

(二)日本では、AI はどのような業務に使われているのか

日本でも、生成 AI の利用先は一つの業務に限られません。

弁護士ドットコムは2023年に調査を実施しました(登録弁護士146名対象)。そこでは、具体的な利用例が挙げられています。メール文案の作成、法律相談への回答概要の作成、契約条項の確認、類似判例の調査、文字起こしなどです。

*判例検索と AI 活用の関係についてもっと詳しく知りたい方は、「弁護士が知っておきたい:判例検索エンジンの仕組み」もあわせてご覧ください。

さらに、東京弁護士会も、2026年7・8月号の『LIBRA』で生成 AI 特集を組んでいます。そこでは、弁護士による AI 活用事例を、「訴訟業務」「企業法務」「事務所運営」の3つに分けて紹介しています。つまり、AI 活用の対象は契約書の作成や審査だけではありません。法律リサーチや事務所運営まで、幅広い場面で検討が進んでいます。

では、その中でも実際に利用が進んでいる仕事には、どのような特徴があるのでしょうか。まずは、今回の調査で具体的なデータが示されている文書業務から見てみましょう。

二、文書業務から見る弁護士の AI 活用

弁護士 AI の活用の中でも、特にデータが厚いのが文書業務です。同じ調査で、契約業務における AI の利用先を見ると、最も多かったのは「契約条項・文案の作成」で、72.8%にのぼります。

続く結果は次のとおりです。

・第三者から提示された契約書のレビュー:54.9%
・契約書の要約:46.1%
・重要な条件・義務の抽出:43.8%
・修正文案の提案:37.5%

契約業務における AI 利用シーン ランキング(横棒グラフ)/データ:契約条項・文案の作成 72.8%・契約書レビュー 54.9%・契約書の要約 46.1%・条件/義務の抽出 43.8%・修正文案の提案 37.5%

(一)契約と訴訟に共通する「文書を扱う」工程

契約業務では、相手方から届いた契約書を読み、問題点を整理します。そのうえで、必要に応じて修正文案を作成します。

訴訟業務でも、文書を扱う場面は少なくありません。事件資料や相手方の主張を確認します。そのうえで争点を整理し、訴訟書面を作成します。

東京弁護士会の『LIBRA』でも、生成 AI の活用事例が具体的に取り上げられています。リサーチ、文書作成、契約書レビューなどです。企業法務に限らず、尋問事項案の作成など、訴訟業務における利用例も紹介されました。

Lawsnote が弁護士に行ったヒアリングでも、近い実感が語られています。契約審査に加えて、訴訟を手がける弁護士からは、準備書面や訴状といった書面作成でこそ AI を使いたいという声が、とりわけ強く聞かれました。

業務の目的は異なりますが、こうした場面には共通する流れがあります。

読む → 整理する → 書く → 人が確認・修正する

生成 AI は、この一連の工程の一部を支援しやすいと言えるでしょう。

(二)「文書を処理する AI」は一つの有力な利用形態

現在、AI がどのような場面で活用されているかを見てみましょう。文案の作成、レビュー、要約、情報の抽出、修正文案の提案など、目の前にある文書を処理する用途は、非常によく見られる利用形態だと言えるでしょう。

法律分野における AI 活用は、文書処理にとどまりません。法律リサーチ、案件管理、社内ナレッジの検索など、利用範囲はさらに広がっています。

一方で、文書業務と AI の相性のよさを背景に、ある動きも目立ちます。AI 機能を Microsoft Word 上で使えるようにする動きです。たとえば LegalOn は、Word 上で契約書レビューやプレイブックを利用できます。AI アシスタント機能も展開しています。KenRi の「Legal Knowledge」も2025年に Word アドインを実装しました。契約書レビューやチャット機能を、Word 上で使えるようにしています。2026年には、同じく Word アドイン型の「Legal Agent」も登場しました。

*契約書レビューを含む生成 AI の法務活用全般については、「生成 AI の法務活用とは?企業法務・契約書業務の効率化を解説」でも詳しく解説しています。

では、AI が普段使っている Word の中に入れば、それで十分なのでしょうか。その前に、もう一つ重要なデータを見てみましょう。

三、利用が広がるほど、「信頼性」と「根拠」が重要になる

(一)利用頻度と、出力への信頼は別の問題

ここまで見てきたとおり、AI はすでに日常的に使われています。しかし、利用頻度と出力への信頼は、別の問題です。

同じ調査で、各 AI ツールの出力について尋ねた質問があります。「正確性に非常に自信がある(Very confident)」と回答した割合は、4〜18%にとどまりました。

ここで、「弁護士は AI を信頼していない」と考えるのは少し違います。

法律実務では、AI の有無にかかわらず、最終的な法的判断や成果物の確認は弁護士が行います。そのため、AI にすべてを任せられることがゴールではありません。重要なのは、AI が出した結果を人が検証できるかどうかです。

日本でも同じ方向性を示すデータがあります。LegalOn が2026年に自社ユーザー 880 名を対象に実施した調査です。AI エージェントを自律的に活用する際、何を重視するかを尋ねています。最も多かったのは「出力内容の正確性・信頼性」で、66.8% でした。「自社の基準や実務への適合性」も 51.8% にのぼります。なお、これは LegalOn 利用者を対象とした調査です。法務・弁護士全体を示す数字ではない点には、注意が必要です。

AI の利用が先に広がり、安心して使うための仕組みがその後を追っている。現在は、そのような段階とも考えられます。

(二)「もっと速い・もっと賢い」だけではないニーズ

では、すでに AI を使っている法律実務家は、次に何を求めているのでしょうか。

同じ調査では、「現在の AI に追加してほしい機能」も尋ねています。最も多かったのは「検証・出典提示」で、20%でした。

次いで、「Word・ワークフローとの統合」が19%、「プレイブック・過去事例の活用」が10%です。一方、「速度・自動化」は4%でした。

この結果を、AI の速度や性能が重要ではないと読むのは早計でしょう。ただし、モデルを速く・高性能にすることだけが、実務家の求める進化とは限りません。

弁護士が AI に次に求める機能ランキング(対比表)/検証・出典提示 20%・ Word/ワークフロー統合 19%・プレイブック/過去事例 10%・速度/自動化 4%

(三)「答えを出す AI」から「安心して仕事に使える AI」へ

法律実務で AI を継続的に利用するには、回答の質だけでなく、その回答を仕事の中で扱えることも重要です。

たとえば、出典や根拠を確認できること。案件の文脈を理解できること。過去事例や組織内のルールを参照できること。そして、実際の業務プロセスの中で無理なく利用できることです。

単に回答性能を高めるだけではありません。なぜその回答になるのかを確認でき、実務の中で安心して使えること。これも、今後のリーガル AI を評価する重要な軸になるでしょう。

四、弁護士の仕事に自然に溶け込む AI とは

(一)Word で使えるようになるだけで、十分なのか

1・コピー&ペースト自体は、大きな負担ではない

ここで、先ほど触れた Word アドインに戻ります。

法律業務では、契約書や訴訟書面など、最終的に一定の形式や体裁を整えた文書を作成する必要があります。

一方、Lawsnote が弁護士に行ったヒアリングでは、少し異なる見方も聞かれました。チャット型 AI で作成した文章を Word にコピー&ペーストすること自体は、それほど大きな負担ではありません。これが、ヒアリングで聞かれた見方です。

そもそも弁護士の文書作成では、過去の書面や契約書、判例などを参照しながら、必要な内容を取り込み、編集する作業が日常的に行われています。そのため、コピー&ペーストが新たな負担として認識されているわけではありません。

2・本当に減らしたいのは、生成後に残る細かな作業

ただし、コピー&ペーストが負担ではないからといって、そこで話が終わるわけではありません。現在の作業フローには、まだ改善の余地があります。

むしろ重要なのは、AI が文章を生成した後に、どれだけ人の作業が残るかです。

AI が作成した文章は、そのまま提出できるとは限りません。内容を確認し、必要に応じて修正したうえで、既存の文書との整合を取る必要があります。さらに、法律文書として求められる形式や体裁に整え、最終的に提出・共有できる状態まで仕上げなければなりません。

こうした作業が従来どおり残るのであれば、効率化には一定の限界があります。それは、チャット型 AI でも Word アドイン型 AI でも変わりません。

一つ一つは小さな作業でも、日常的に繰り返せば相応の時間がかかります。AI がこうした作業まで支援できれば、弁護士はより専門性の高い業務に時間を使いやすくなります。

たとえば、訴訟戦略や交渉方針の検討、リスク判断、クライアントへの助言などです。

AI に期待されるのは、単に文章を生成することではありません。文書を実際に使える状態まで仕上げる過程を、どこまで支援できるか。そこに、業務へ自然に溶け込む AI の価値があると考えられます。

(二)理想は、仕事の流れを止めずに使えること

1・業務の中で摩擦を感じる場面

文書の体裁を整えることだけが、論点ではありません。実務で滞りを感じやすいのは、次のような場面です。案件に必要な情報を、別の場所から探し直す。クライアントとのやり取りを、案件情報に反映する。チームでのレビューのために、別のシステムへ移動する。AI が出した結果を、最後に人がもう一度使える状態まで整える。

どれも、一つ一つは小さな作業です。しかし、こうした細かな切り替えや手作業は、日々の業務の中で積み重なっていきます。そこで重要になるのが、AI を既存のワークフローへどう組み込むかという視点です。

2・一つの環境で完結させる動き

実際、最近のリーガル AI では、Word との連携にとどまりません。プレイブックや過去案件の検索、案件管理などを一つの環境で扱おうとする動きも見られます。LegalOn は Word 上でプレイブックや AI アシスタントを利用できるようにしています。2026年には、契約書のひな形選定や基本情報の反映を含む作成プロセスを支援する機能も追加しました。

3・機能を増やすのではなく、負担を減らす

ただし、機能が増えれば便利になるとは限りません。Lawsnote のヒアリングでも、これに関わる声が聞かれました。費用をかけて Word 用の AI サービスを導入するなら、文章生成だけでなく体裁の調整まで対応してほしいという意見です。あわせて、複雑な Word 画面に自然になじむ UI/UX であってほしいという指摘もありました。弁護士が普段使うツールには、すでに多くの機能が備わっています。Microsoft Word も、その一つです。そのため、新しい AI 機能を加える際には、既存の操作を邪魔しないことが重要です。

AI を使うための作業を増やすのではなく、AI によって既存の作業を減らすこと。ワークフロー統合を考えるうえでは、この視点が欠かせません。

(三)AI を「機能」ではなく「一連の仕事」の中で考える

Word アドインは、AI を既存業務へ組み込むための、一つの手段にすぎません。理想的な AI ツールが支援すべきなのは、個別の作業ではなく、一連の仕事の流れそのものです。

そのため、今後は工程ごとに別々の AI 機能を追加するだけでは不十分です。必要な支援を、一連の仕事の中で連続して利用できるかどうかが重要になります。

実際、2026年には弁護士ドットコムも「統合型」の法務 AI エージェントを打ち出しました。法令・判例・ガイドライン・法律専門書籍などの情報基盤と AI を組み合わせています。論点検討からリサーチ、分析、草案作成までを、一つの流れの中で支援する狙いです。

一つの仕事を進めるために、複数の独立した AI ツールを次々と開く必要はありません。必要な AI 機能が、弁護士が普段行っている仕事の流れの中に、自然に組み込まれていること。これは、弁護士の判断を AI に置き換えることを意味しません。むしろ、専門性の高い判断や助言に時間を使えるようにすることこそが、統合型 AI の目的です。リーガル AI の今後を考えるとき、この方向性は重要なポイントになるでしょう。

まとめ:AI の価値は「何ができるか」から「どう仕事に使えるか」へ

弁護士 AI の活用は、契約審査や書面作成、法律リサーチなど、さまざまな業務に広がっています。そして、利用が日常化するにつれ、求められるものも変わります。

単に回答が速いか、文章が上手かだけではありません。根拠を確認できるか。案件や組織の文脈に沿って使えるか。そして、普段の業務を中断せずに利用できるかも重要です。

Word への統合は、その一つの形でしょう。しかし、重要なのは Word に AI を搭載すること自体ではありません。細かな作業やツール間の切り替えを減らせるかどうかです。弁護士が判断、戦略、助言といった専門性の高い仕事に集中できる環境を作れるかが問われます。

AI が法律実務の日常に入り始めた今、リーガル AI の価値を測る軸も変わりつつあります。「何ができるか」から、「実際の仕事の中でどう使えるか」へ。そう捉え直してみることが、これからの AI ツール選びの出発点になるのではないでしょうか。

「検証できる AI」を、日々の実務に。

Lawsnote は、「法律業務をもっと効率的に」を掲げるリーガルテック企業です。現在、日本の弁護士・法務担当者の皆様に向けたサービス提供に向けて準備を進めています。

  • AI の回答を、根拠まで遡って確認したい
  • 判例・法令調査とドラフト作成を、行き来せずに一つの流れで進めたい

このような課題に関心をお持ちの弁護士・法律事務所の皆様は、ぜひ情報登録にご協力ください。サービス開始時には、優先してご案内いたします。

【監修・執筆者紹介】
郭栄彦 Barry Kuo

郭 栄彦 Barry Kuo

Lawsnote 創業者・CEO

台湾を代表するリーガルテック企業「Lawsnote」の創業者。台湾弁護士・弁理士としての実務経験を経て2016年に同社を設立し、AIを活用したリーガルテック製品の開発・普及を主導。現在はLawsnote Japanの代表として、日本の法律実務の効率化と高度化を支援しています。